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MEMORIAL DINNER SUIT

8/06/2012


先日の話題の続きです。

“SAVILE ROW A Glimpse into the World of English Tailoring”の著者  長谷川喜美さんをお招きしてのトークショーの最後に、弊社の方から実際のサヴィル・ロウ仕立てビスポークの参考品2着のうちの1着として紹介させていただいたディナースーツ(米名:タキシード)がこちら。
このディナースーツをオーダーしたのは、当時英国の大学院に留学中だった弊社現社長(2代目)の岸克彦でした。

HUNTSMAN(ハンツマン)で1967年に製作されたこのディナースーツは、ショールカラー(ヘチマ襟)のダブルブレステッドでタイト目にカットされており、今見ても違和感を感じないシャープな仕上がりです。
生地は当時のヨークシャーの有力ミル(織物工場)HUNT&WINTERBOTHAM(ハント&ウインターボザム)製のキッドモヘア55%混バラシアで、非常にしっかりしていて50年近い歳月を感じさせません。

英国留学の記念としてオーダーした1着で、仮縫い・中縫いの後入念に仕立てられたようですが、当時サヴィル・ロウでスーツをオーダーすることのできた日本人は稀だったため、帰国後このディナースーツは裁断・縫製技術の資料として引っ張りだこだったそうです。

全国の洋服組合を廻って帰ってきたときには、(袖付けの技術を見るために)どこかで片方の袖を外しまた付け直されていたようで、後日他のテーラーさんが見て発覚。
まだ発展途上だった日本の紳士服業界で、テーラーさんがどれだけ技術向上に熱心だったかが窺える、今となっては微笑ましいエピソードです。



余談ですが、今も昔もサヴィル・ロウの名門テーラーではビスポークスーツの裏地に(服地ブランドの)織ネームはおろかショップネームも付けません。
よって内側を見てもどのテーラーで仕立てられたスーツかは分かりませんが、実は内ポケットをめくると店名、オーナーの名前、製造年月、シリアルナンバーが印字されたタグが貼られており、半永久的に保管されている型紙をすぐに探し出すことができます。

高級なビスポークスーツでも決してひけらかすようなことをしないのは、まさに英国流のアンダーステートメントの表れのようです。